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松山地方裁判所 昭和34年(レ)112号 判決 1960年8月05日

控訴人(附帯被控訴人) 香川いすず自動車株式会社

被控訴人(附帯控訴人) 寺尾頼朝

主文

本件控訴及び附帯控訴はいずれも棄却する。

訴訟費用中控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という)代理人は当審各口頭弁論期日に出頭しないが陳述したものとみなされた控訴状によれば「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求めるというにあり、被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)代理人は「本件控訴を棄却する、附帯控訴にもとづき、原判決中被控訴人敗訴の部分を取消す、附帯被控訴人の請求を棄却する」との判決を求めた。

控訴人は本訴請求原因として、昭和三十一年十二月十三日被控訴人は訴外四国いすず自動車株式会社高松営業所(以下四国いすず高松営業所と略称する)に宛て、額面金九万二千八百五十六円満期昭和三十三年三月三十一日支払地振出地宇摩郡土居町、支払場所広島銀行土居支店とした約束手形一通を振出交付し、控訴人は昭和三十二年十一月十日右手形を四国いすず高松営業所から裏書譲渡をうけ、所持人となつたので、満期に支払場所に呈示して支払を求めたが支払を拒絶された。よつて被控訴人に対し右手形金及びこれに対する満期の翌日以降完済まで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求める、と述べ、

反訴の答弁として、被控訴人主張事実中四国いすず高松営業所が被控訴人主張の貨物自動車一台を主張の日に主張のような約定で被控訴人に売渡し、その支払方法として被控訴人が主張のような約束手形を振出したことは認めるが、右自動車を被控訴人方に回送途中通行人を轢殺したとの点及び控訴人が四国いすずの権利義務を承継したとの点はいずれも否認する。その余の事実は知らない。控訴人は四国いすずから同社高松営業所管内の債権の有償譲渡をうけただけである。従つて控訴人は当事者適格がない、と述べ、

被控訴代理人は本訴の答弁及び抗弁として、控訴人主張の請求原因事実は認めるが本件約束手形は昭和三十一年十二月十四日被控訴人が四国いすず高松営業所からいすず貨物自動車一台を代金百八十万円で買受け、その支払方法として即時四十万円を支払い残金を分割払とし各額面九万二千八百五十六円の約束手形十五枚を振出したうちの最後の一枚であるところ、被控訴人は右自動車の引渡をうけて後昭和三十二年五月頃に至り、右自動車を被控訴人方に回送途中通行人を轢殺する事故を起し運転手が処罰をうけた事実を知つたので新車の価値を減少せしめたものとして代金の減額等を交渉中控訴人は金一封一万円を見舞金として被控訴人に贈与したが、更に交渉の結果昭和三十三年三月六、七日頃当事者間に本件手形金額を減額する契約が成立したから本件手形債務は消滅したと述べ、反訴請求原因として、右のように四国いすずから被控訴人が買入れた自動車はいわゆる因縁付きの車として一般取引上の価格が半減したものであるから昭和三十二年六月二十九日四国いすずから香川地区一帯の取引関係における権利義務を承継した控訴人は、被控訴人に対し、右の隠れたる瑕疵によつて生じた損害を賠償すべき義務があるところその額は代金の二割相当額であるが、前叙減額契約の事情もあるから同額に減縮して金九万二千八百五十六円の支払を求める、と述べた。

証拠として、控訴人は甲第一号証を提出し、乙第一号証の成立を認め、被控訴代理人は乙第一号証及び検乙第一号証を提出し原審証人谷本豪夫、鴨川貞夫、高橋英明、当審証人竹内巧の各証言、原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果並びに原審における検証及び鑑定人田中環の鑑定の各結果を援用し、甲第一号証の成立を認めた。

理由

一、本訴及び反訴に関する事実中昭和三十一年十二月十四日被控訴人が四国いすず高松営業所からいすず貨物自動車一台を代金百八十万円とし、その支払方法として即時四十万円を支払い残金を分割払とする約定で買受け、右支払に充てるため約束手形十五枚を振出したこと、及び同年同月十三日被控訴人が四国いすず高松営業所に宛て額面九万二千八百五十六円満期昭和三十三年三月三十一日支払地振出地宇摩郡土居町支払場所広島銀行土居支店とした約束手形一通を振出交付し、控訴人は昭和三十二年十一月十日右手形を四国いすず高松営業所から裏書譲渡をうけ所持人となつたので満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、支払を拒絶されたこと、はいずれも当事者間に争がなく、右支払拒絶にかゝる手形が前記自動車代金の支払方法として被控訴人の振出した約束手形のうちの最後の一枚であることは、原審及び当審における被控訴本人尋問の結果によつて明らかであり、これに反する証拠はない。

二、被控訴人は本訴の抗弁として、昭和三十三年三月六、七日頃控訴人との間に本訴請求にかゝる右手形金の減額契約が成立したから右手形債務は消滅したと主張し、成立に争のない乙第一号証及び原審証人谷本豪夫の証言によれば被控訴人が主張のような(後記認定のとおりの)事情の下に控訴人に対して本件手形金の支払の免除を要求し、これと交渉した事実はこれを認めることができるけれども、主張のような契約が締結された点については右証言と比較してたやすく措信し難い原審及び当審における被控訴本人尋問の結果中右主張に沿う趣旨の供述部分以外には認めるに足る証拠がなく、却つて前掲証言によれば被控訴人主張のような減額契約は遂に締結されるに至らなかつた事実を認めうるから被控訴人の右抗弁は採用できない。

そうすると被控訴人に対し本件手形金九万二千八百五十六円及びこれに対する満期の翌日である昭和三十三年四月一日以降完済まで手形法所定年六分の割合による利息の支払を求める控訴人の本訴請求は全部正当であるからこれを認容すべきものである。

三、よつて反訴についてまず被控訴人主張の瑕疵の存否から判断するに前掲乙第一号証、原審証人鴨川貞夫同谷本豪夫の各証言の一部(ただし後記認定に反する部分を除く)原審及び当審における被控訴本人尋問の結果を綜合すると、昭和三十一年十二月十二日被控訴人にその買受にかゝる前掲貨物自動車の引渡をなすに先立ち松山陸運事務所において車輌検査をうけるため当時四国いすず従業員であつた鴨川貞夫が運転して高松市を出発し松山市に向う途中香川県三豊郡山本村において、過失により、原動機付自転車に乗り同方向に進行中の矢野藤吉に接触して同人を路上に転倒させた上、自動車右後車輪で背部を轢き、よつて同日死亡せしめたこと、この事故のため運転者鴨川は観音寺簡易裁判所より略式命令で罰金一万五千円に処せられたこと、然るに四国いすずは右事故を知りながら被控訴人に告げずに右自動車を引渡したこと右自動車には外形的な損傷はなかつたこと、以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するような証拠はない。

ところで民法第五百七十条にいわゆる売買目的物の隠れたる瑕疵とはその物が取引の観念又は当事者の意思により通有すべき性質上の欠点があるため価値を害するものをいうものであるところ、右性質には単なる物理的法律的性質のみならずひろく思想的感情的性質をも包含するものと解するのが相当である。けだし一般の取引においては右の各性質が物の価値とりわけ交換価値を形成するものだからである。これを本件についてみるに原審における被控訴本人尋問の結果によれば被控訴人が買受けた自動車は俗にいう新車であるからいわゆる新品の自動車を指すことは論をまたないところ右自動車に前認定のような他人の嫌悪すべき歴史又は出来の附著したときはその思想的感情的性質に著るしい欠点があり交換価値の減少を招くものであるから新品と称し難い瑕疵あるものと認めるのが相当である。

しかして右のような瑕疵は売主の告知がなければ買主に分らないのが通常であり本件において被控訴人が売買当時右瑕疵の存在を知らなかつたことは原審及び当審における被控訴本人尋問の結果によつて認めることができ、これに反する証拠はないから本件自動車には前叙隠れたる瑕疵があつたものといわなければならない。そうすると被控訴人は特別の事情のない限り前記代金額と右瑕疵のある自動車の売買当時における客観的取引価格との差額に相当する財産出損の損害を蒙つたものと認められるから売主たる四国いすずに対し民法第五百七十条第五百六十六条に基く損害賠償請求権を有するものである。

しかるに当審証人竹内巧の証言、原審証人谷本豪夫の証言の一部並びに原審及び当審における被控訴本人尋問の結果を綜合すると控訴人は元の四国いすず高松営業所の人的物的設備を継承し、かつ従来の営業の譲渡をうけるとともにこれに附随する債権を譲りうけ又債務の引受をなし実質的には右営業所が独立の法人に組織替えされた形態で昭和三十二年六月二十九日設立されたものであること、なお被控訴人に対しては昭和三十二年暮頃右営業所関係の権利義務を承継した旨の通知をした事実が認められるから被控訴人は控訴人に対しても右損害賠償の請求をなしうるものである(従つて控訴人の当事者適格がないとの主張は理由がないこと勿論である)ところ前掲谷本の証言及び被控訴本人尋問の結果によれば被控訴人は昭和三十二年五月頃右事故の発生を知り、同年十月頃控訴人方を尋ねて損害賠償の請求をなし具体的には前掲約束手形一枚の支払免除を要求したところ、控訴人は翌三十三年一月頃金一万円を被控訴人に贈つて陳謝の意を表したが遂に折合のつかなかつた事実が認められる。

しかして控訴人が被控訴人に対し損害賠償義務を有することは前認定のとおりであるからその額について考察するに原審証人高橋英明の証言、原審及び当審における被控訴本人尋問並びに原審における鑑定人田中環の鑑定の各結果を綜合すると本件自動車の前記代金額と取引当時の客観的価格との差額は右代金額の六分相当額すなわち十万八千円であると認定されるからこれから前認定にかゝる贈与金一万円を控除すると、結局控訴人に対し金九万八千円の損害賠償義務がある。

そうすると控訴人に対しその範囲内である金九万二千八百五十六円の支払を求める被控訴人の反訴請求は全部正当としてこれを認容すべきである。

四  しからば本件本訴及び反訴の各請求をすべて認容した原判決は結局正当であり本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないから民事訴訟法第三百八十四条に則り棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤竜雄 仲江利政 礒辺衛)

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